大学院は高度な専門教育のみを行うところ、というこれまでの日本の常識を変えるために名古屋大学が2017年に設立したのが博士課程教育推進機構です。

一般に大学院の卒業生に社会が期待することは、専門性や問題解決能力の高さではないでしょうか。しかし、社会に出て活躍するためには、それだけでは決して十分ではありません。専門を超えた広い視野、コミュニケーション能力、企画力、リーダーシップ能力、さらに加えて国際的に活躍するための英語力などの汎用的な能力を獲得することが必須と言えると考えられます。これらの能力は、結局は自分自身をどのように社会に対して適応させていくか、ということにまとめられます。このような汎用性の高いスキルで、例えば研究などを通じて得たあるスキルを、ビジネスなどに転用することを容易にするスキルのことを、トランスファラブルスキルと呼びます(欧州科学財団2009)。このスキルを獲得することによって、アカデミア以外の社会への適応が容易になるだけでなく、研究の効率も上がることが実証されています。博士課程教育推進機構の一つの大きな目的は、名古屋大学の大学院学生に、高いレベルでのトランスファラブルスキルの獲得を促すことにあります。

名古屋大学では、近年、文部科学省の大型教育研究プロジェクトを獲得、大学院教育の改革に勤めて参りました。特に、2011年度から始まった博士課程教育リーディングプログラムは、7年間にわたって博士課程教育の改革のために多額の資金を投入する、というもので、名古屋大学では6つのプログラムが採択され、その活動に対して高い評価を受けてきました。博士人材を社会のあらゆる場面で活躍する次世代リーダーになるよう育てる、という理念に基づいた各プログラムの優れた成果を、名古屋大学全体の博士課程教育に広げる役割を担うのも、博士課程教育推進機構になります。リーディングプログラムに続いて、新たに始まったのが卓越大学院プログラムです。こちらにも名古屋大学は初年度に2プログラムが採択されましたが、博士課程教育推進機構は申請段階からこれら2プログラムとはカリキュラム作成などで連携してきました。

ジョイント・ディグリープログラムなど、国際的な博士課程教育の連携をサポートするのも、博士課程教育推進機構の重要な役割になります。例えば、2027年度までに20プログラムまで拡大する予定のジョイント・ディグリープログラムでは、相手の大学での研究指導を受けるための高い語学能力が前提となり、また、学位の質保証などが重要な問題となります。博士課程教育推進機構では、そのために実践的な英語講座を開講し、学位の質保証などについても各プログラムと連携して進めていきます。

学生の出口、産業界など社会との連携という観点で、名古屋大学の中では産学共創教育の取り組みがいくつも進められています。これらをまとめ、支援するのも、博士課程教育推進機構の役割です。さらに、大学院博士後期課程まで進学した学生個人のキャリアのサポートも行っています。面談を通じて、学生の悩み、希望を聞き取り、企業とのマッチングをはかります。年に一度は、企業と博士人材の交流会をこれまで実施してきています。

名古屋大学の大学院教育のヘッドクォータとして、これからその役割を充実させ、大学全体の教育改革を担う一翼として活動していきたと考えています。まだまだスタートしたばかりの機構ですが、どうかよろしくお願いします。

名古屋大学博士課程教育推進機構 機構長
杉山 直

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